ガルの随筆

随筆的なアレ

知らぬが仏

基本的には、知らないということは恥だと思っている。

 

「そんなこと知らねぇよ」

「そんなん知らんわ」

 

と偉そうに言うぐらいなら、謙虚に教えを乞うべきである。

 

人間は学びを止めたら死んでしまうからだ。

 

ただ、人生においては知らぬが仏である瞬間も存在する。

 

スーパー銭湯が好きだ。

 

より厳密にいうと温泉に入ることよりは

 

サウナに入って汗をかくことが好きだ。

 

いや、もっと厳密にいうとサウナに入った後の水風呂で昇天しそうになる瞬間が好きである。

 

まだ一応20代の身ではあるが、10代の頃からサウナにはよく入っていた。

 

サウナにはテレビが設置されていることが多い。

 

正月にサウナのテレビで箱根駅伝を放映していたことがあった。

 

当時高校生だった自分は、

 

「この選手が次のランナーにタスキをつなぐまで出ない」と、

 

別に難病の手術を控えた子どもに約束したわけでもないのに頑張ってしまい、

 

銭湯の隅っこで少しリバースしてしまった大罪を犯したぐらいには好きである。

 

昔は単純に汗をかきたくて通っていたが、最近はストレス発散のためにサウナを訪れることもある。

 

つい先日、いつものように極限状態までサウナで身体を火照らせ、

 

もう大人になったので、テレビで深イイ話の「この人のお父さんは誰?」を散々焦らされても我慢せずに水風呂で体を冷やして・・・。

 

有意義な時間を過ごしていた。

 

3回目の水風呂を終えたころだろうか。

 

さっきまで自分が入っていたサウナから

 

齢60程度、体は赤紫に火照り、

 

人体の融点を超えてしまうのではないかと思わしき人間が出てきた。

 

ふらふらと歩き、目もうつろで少し心配していたのだが、

 

これまたさっきまで自分が入っていた水風呂へスーッと吸い込まれるように歩を進め、

 

かけ湯など一切せずに、入水自殺するかのように水風呂へ沈んでいったのである。

 

「ウォォォォォ・・・」

 

最大限のエクスタシーを感じたかのように声を発するその物体。

 

(ウォォォォォ・・・)

 

汚さと、なっていないマナーへの憤りと絶望を感じる自分。

 

奇しくもシンクロしたものの、自分がオアシスだと思っていた水風呂が、

 

実は汚いオヤジの汗の希薄溶液だったなんて。

 

いや、そんなことはわかっていたはず。

 

むしろ、浴槽の中で用を足しているやつだっているはずで、

 

共用の風呂なんて基本的にはどえらいものなのは知っている。

 

知っているけど・・・。

 

多分、その光景を見ることがなければもう一度サウナと水風呂の往復をしていただろう。

 

結果、私はそのまま温かいお湯につかって、シャワーを浴びて帰路に就いた。

 

ただ不思議なもので、またその銭湯を訪れた際は私は躊躇いもなく水風呂へ入ることだろう。

 

ちなみに 仏(のような存在)になれたとしても沐浴をするつもりは当然ない。